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【深堀り!】高校時代の約束を20年越しで果たすということ。『生田斗真 挑む』への共感と畏怖

【深堀り!】高校時代の約束を20年越しで果たすということ。『生田斗真 挑む』への共感と畏怖

俳優 生田斗真。11才からジャニーズJr.として芸能活動を開始、アイドルとしてのスタートを経た後、俳優の道を極めてきた。一方、歌舞伎俳優として5才で初舞台、歌舞伎のみならずドラマやミュージカルなどで幅広く活躍する尾上松也。高校の同級生ながらエンタメの世界で全く違う道程を辿った二人が新作歌舞伎に“挑む”時が来た。本日6月16日に全世界に配信開始されたNetflixドキュメンタリー『生田斗真 挑む』の魅力を紐解く。

20年来の約束を叶える俳優への共感

高校時代。まだ子どもの部分を残しながらも、自分の将来を考える時期。その頃、友達と交わした約束をどれだけ覚えているだろうか。それが「何年後、どこで会おう」という簡単なものでさえ、なかなか果たせるものではない。

『生田斗真 挑む』に記録されているのは、そんな高校時代の約束を見事に叶えた男たちの姿。しかもそれは「いつか一緒に歌舞伎をやろう」というもの。今となってはそれぞれ役者として一線で活躍する生田斗真と尾上松也。けれど高校で芸能コースの同級生だった彼らは、仕事のために早退するクラスメイトをよそに、仕事が少なく毎日フルで学校へ通いながら悔しい思いを抱えていたそう。自然と芸能活動に関する会話は避けていた二人が、唯一交わしていた約束こそ「いつか一緒に歌舞伎を」だったのだという。

作中では生田へのインタビューを通じて、高校時代に自分と周りとを比べて劣等感を感じていたこと、芸能界をやめることも考えていたこと、その中で演劇と出会い、新たな目標を見つけたことも率直に語られ、一人の俳優がどのように生まれたのかが丁寧に辿られる。さらには、周囲からは順調にキャリアを重ねてきたように見える彼が30代に入ってからの逡巡も。生田が「自分の芝居に飽きてくる瞬間がたまにあるんです」「あっ、また俺同じパターンやってるな」と思い、だからこそノウハウも技術もなく「絶対にできないこと」に挑戦したいとこの新作歌舞伎に参加を決めたことも明かされる。

私たち視聴者は、俳優はつい特殊な仕事だと思いがちだ。彼らの誓った「一緒に歌舞伎の舞台に」はさらに特殊な夢に感じられる。けれど、生田の吐露する「周りに比べて自分ができていない」という焦りや、仕事に慣れてきたからこそ生まれる不安は、どんな仕事にも共通することかもしれない。

「かっこよさ」を追求する姿:挑戦を受容する新作歌舞伎

 歌舞伎に出演経験のない俳優が、しかも中心的な役柄で参加するのはなかなかある例ではない。生田は稽古に必死に取り組み、その姿を見た共演の歌舞伎俳優たちも彼を受け入れ、惜しみなく歌舞伎のことを教えてゆく。

新鮮なのは、この稽古シーンでの松也の言動だ。松也は歌舞伎の決めポーズ・見得を生田に教えるとき、「このほうがかっこいい」「こうなるとダサい」と言う。歌舞伎というと型がゆるぎなく決まっている印象を勝手に持っていたが、型を理解したうえで「かっこよさ」を追求してもいいのだ、それがこの公演で現代の観客の心を動かしたのだと改めて思わされる。

生田の役は、松也演じる赤胴鈴之助のライバルであり親友の竜巻雷之進。初めての歌舞伎で、見得を切り、六方(歌舞伎俳優でも限られた人しかやることのない歩き方)を踏み、とんでもなくハードな立ち回りをしてみせる。松也が「あそこまでやった人いないでしょ多分」というように、ただでさえ発声も節回しもすべてが初めての歌舞伎の舞台で、生田はあらゆる歌舞伎の要素を演じてみせるのだ。前半のインタビューで生田の思いに共感した次の瞬間、「これはちょっとやそっとでできることじゃない」と改めて俳優という仕事の、そして彼の凄みを感じるのがこの作品の面白いところだ。

 細部に宿る生田斗真の凄み

本番の舞台で見せる華やかさ。一転、六方を踏んで引っ込む瞬間の荒い息遣い。本番の映像の美しさ、ダイナミックさに目を奪われる。生田、松也の共通の友人である中村七之助が語る生田のベストシーンが、一流の歌舞伎俳優でなければ気づかないような、ごくささやかなポイントなのが印象的だ。生田が全身全霊で挑み、それが見事に実を結んだことが、プロの解説によって伝わってくる。

高校時代の約束を叶えるという稀有なことをやってのけた二人。けれど彼らは常にそのことを考えていたわけではない。それぞれ必死に自分の人生を生き、その結果として今回の公演があった。作品終盤で語られる二人の新たな夢は、いつか叶うだろうか。この二人ならきっと実現させるに違いない。その時はぜひ客席からその勇姿を見届けたいと心から思う。

 (文:釣木文恵) 

Netflixドキュメンタリー『生田斗真 挑む』Netflixで全世界独占配信中。

https://www.netflix.com/tomaikuta

演劇の街・下北沢の中心的存在である本多劇場で行われた『尾上松也・歌舞伎自主公演 挑む Vol.10〜完〜 新作歌舞伎 赤胴鈴之助』の舞台映像も同時に楽しめる。

https://www.netflix.com/title/81517566