社会貢献
2022年7月18日Netflixでは、より良い作品づくりを目指して、スタッフや俳優が安心して作品づくりに集中できる制作環境を現場と一緒に整えることを重要視しています。日ごろから「思いやりのある」言葉や行動がある現場とはどんなものか、考えながら少しづつ意識を変えることを促しています。
こうした取り組みの一環で「リスペクト・トレーニング」の導入と作品への「インティマシー・コーディネーター」の参加に積極的に投資しています。
7月8日、東宝スタジオにてNetflix主催の「Studio Day」をメディアや関係者向けに開催いたしました。そこで株式会社フジテレビジョン ドラマ・映画制作部所属でNetflixシリーズ「金魚妻」の監督を務めた並木道子 氏とインティマシー・コーディネーターの浅田智穂 氏を招き「より良い作品づくりに向けた制作環境へ」と題したクロストークを実施しました。Netflixからはプロダクション部門 日本統括 ディレクターの小沢禎二、またMCとして小島慶子 氏が参加しました。
ここでは、そのクロストーク内容をご紹介いたします。
良い撮影現場は「風通しがいい」
(MC)「より良い作品づくりに向けた制作現場へ」のテーマでお話を伺います。まず、昨今の撮影現場では、どのような課題を感じていらっしゃいますか。
(浅田氏)私が考えるいい現場は、「風通しがいい現場」。一人ひとりがスタッフや俳優関係なく、自分の意見や気持ちを伝えられる、声をあげられる現場だと思います。どうしても現場ではパワーバランスがあります。そのため、立場上言いづらいことを言えないことが出てきてしまうときもありますが、それが改善されて自分の気持ちが伝えられるということが良い現場には必要だと思います。
(小沢)私はアメリカの現場で撮影に参加したこともあるのですが、誰でも声をあげていいんです。それが本当に素晴らしい。例えば、監督が撮影の方法に悩んでいたら現場で通りがかった関係者やスタッフが立場関係なく、監督にフラットに意見を言う。監督もそれを前向きに取り入れようとする、という現場を目の当たりにしました。誰でも意見を言いやすい現場の雰囲気が海外にはある印象です。
(MC)テレビ局の中ではいかがですか。
(並木氏)私たちディレクターやプロデューサーがジャッジする立場である以上、自分たちがそのつもりがなくても周りの俳優やスタッフが我々に忖度して本音で話せない、ということも起こり得ると思います。そのため、なるべく全員が本音を言いやすい空気を現場にを生みたいと心がけて撮影に臨んでいます。
(MC)アメリカとの比較もありましたが、日本はやはり現場の労働時間が長いそうですね。
(小沢)現場を見ていただくと驚くと思うのですが、アメリカの現場には笑顔がありました。皆さん楽しそうに仕事されているように見えました。先ほど並木監督からありましたが、日本だと忖度がある。周りの顔色を伺いながら仕事をすることも多い。労働時間が改善されないと日本の現場にも笑顔は増えないと感じます。
(MC)ものが言いやすい環境や忖度がない環境であれば、若手も伸び伸びと成長しやすい余地がある。働く時間が短ければ、その分だけ皆さん余暇も持って健康に働けますね。
(並木氏)心身ともに良いコンディションで撮影に臨みたいので、日々これを意識しながら撮影しています。一方で課題は、労働時間を守りながら作品のクオリティを保とうとすると、撮影期間が長くなることです。スタッフの人数も増やすことになるので、制作予算面が常に課題です。
(並木 道子 氏 株式会社フジテレビジョン ドラマ・映画制作部所属、Netflixシリーズ「金魚妻」監督)
中立的な立場で作品のビジョンを支える、インティマシー・コーディネーター
(MC)Netflixシリーズ「金魚妻」で、実際にインティマシー・コーディネーター(以降IC)を現場で導入されました。日本では馴染みがないと思います。俳優の方々もおそらく初めての体験だったのではないかと思いますが、現場はどうでしたか。
(並木氏)最初は私もICに対する知識がありませんでした。一体どこまで何をお願いしていいのか手探りで始まりました。ですが、浅田さんが俳優の皆さんの気持ちを細かく聞いてくださり、私に伝えてくださいました。作品をより良くするために考えて動いてくださったので、とてもありがたい存在です。作品に入っていただけて本当によかったです、ありがとうございます。
(浅田氏)「金魚妻」はプロデューサーや監督が、ICの役割をきちんと理解してくださいました。その理解がないと、やはり私の役割を遂行するのは難しいのです。また監督のビジョンが明確で、その上で私に任されて頼ってくださった。その信頼関係がきちんと俳優にも伝わったんだと思います。
「金魚妻」の俳優部には、インティマシーシーンに出演される方がたくさんいらしたのですが、みんなで信頼関係を築いて、自分の気持ちをはっきり伝えられた現場ではないかなと思います。篠原さんや岩田さんのシーンも、すごくいい雰囲気で作り上げることができたと思います。
Netflixシリーズ「金魚妻」
(小沢)俳優の皆さまの取材記事を読み、「助かった」「こんな仕事が日本にもあるんだ」という感想を目にしました。今後も類似のシーンがあったときにはぜひ浅田さんにお声をおかけしたいとあったので、参加いただけてすごく良かったなと思っています。
(並木氏)浅田さんの人間性も含めて、とてもおおらかに現場を包んでくださった。台本の解釈も的確で、私がそのシーンで表現したいことをきちんと感情面でも捉えていただいた上で参加いただけたのがありがたかったです。俳優または監督どちらかの味方になるわけではなく、作品を良くするためにいてくださったのが大変ありがたかったです。
(浅田氏)信頼関係があるからこそ言いたいことが言える。嫌なものは嫌だ、できることはできると言える。そして、俳優と演出どちらかの味方をするわけでなく全員で良い作品を目指す。それに対する努力をすごく大切にされていた現場だと思います。
(浅田智穂 氏 インティマシー・コーディネーター)
働き方のアップデートが求められるなか、いまできることとは
(MC)今日本に2人しかいないICを増やす上での課題はありますか。
(浅田氏)ありがたいことに、ICを話題にしていただいて依頼が増えています。来年以降の話も届いています。ICは増えていくべきだと思いますが、アメリカで始まったICという職業は俳優組合のガイドラインに基づいています。日本にはそれがない。我々ICが受けているトレーニングというのは、アメリカを基準としたトレーニングなので、日本式に変換する必要があります。ただし日本式に変えるといっても、その土台になる長時間労働や休日がない問題をすべて含めて改善するガイドラインなどが必要とも思います。
まずはガイドラインを整えて、その後新たなICの育成に取りかかる。そうでないと現場ごとに対応の差が出てきてしまうことを危惧しています。
(MC)表現をする現場での働き方をアップデートすることが大切ですね。今まで古き伝統といいますか、「暗黙の了解」で現場はこういうものだとされている日本の映像作品の制作現場を見直し、働く人がハッピーになる環境へ変えていくことが必要ですね。
(小沢)リスペクト・トレーニングにしてもICの導入にしても、Netflixは海外での取組みが日本で実現性があるのか、ただそのまま日本へ持ってくるだけではなくどうローカライズするか、つまり日本に合うものにしていくかには時間がかかります。NetflixとしてICの知見を溜め、またリスペクト・トレーニングを実施しながら、それに改善を加える。これを続けることで、現場で働く皆さんが安心して本当に仕事に取り組める。環境が良くなることで、作品も良くなると思います。
ただ、一社だけで取り組んでいたとしても、簡単に大きな山は動きません。社会全体、業界全体を巻き込んで意識を変えるためには、政府からも応援いただく必要があると常々考えています。
「仕事だけが人生じゃない働き方」の実現で、より良い作品が生まれる
(MC)日本の作品はポテンシャルが高く、世界に通用するクリエイティブな才能があります。日本の業界全体が元気になって、日本から世界に作品を広める土壌を作るためにも、政策の後押しも必要ですね。放送局は力があり、影響力もあり、いい作品もたくさん生み出す現場でもあります。実際に組織の中で表現のお仕事をされている並木さんとして、現場の課題をどうお考えですか。
(並木氏)これからのエンタメ業界は、若い人材を確保するだけでなく、若い人材の育成も含めて労働環境を整えることでより良くなっていくと思います。
(小沢)Netflixも同じように考えています。働きやすい労働環境が整わない限り、若い方が入ってきてもすぐ辞めてしまう。(若い人材が)いないわけではなく、入ってきても辞めてしまうんです。彼らがなぜ辞めてしまうのか、それは労働環境が悪く自分の時間を作れないから。さらに人間関係の悩みで、続かないこともあり得るかもしれません。
(浅田氏)気持ちと生活に余裕がないと、ハラスメントが起きやすい環境に陥ると思います。
(並木氏)楽しいことを目指してエンタメ業界に就職したのに、どうしてこんなに辛いのだろうと。どうにか面白がってもらえるような現場を我々上に立つ人間も意識しながら作っていかなければならないと思っています。また、若い人は若い人で、短い労働時間の中で多くを吸収しようという積極性も持っていただきたいです。
(小沢)今Netflixでは、労働時間に上限をつけていただいています。我々が現場でしていることは「仕事」です。今の現場の皆さんは、それが「人生」になってしまっているように見えることもあります。Netflix作品に関わるスタッフには「1日ある程度の時間が経ったら、撮影を終わります。残りの時間で自分の人生を楽しんでください」と伝えたいです。
(一同)本当にそうですね。
(MC)俳優や制作者、技術の方などまでのスタッフが人間らしい働き方ができる。まさに「仕事だけが人生ではない働き方」ができるから、良い作品が生まれるのではないかと感じています。政策においても、後から振り返ったときに2022年が一つの転換点だったと言えるような業界の変化が生まれることに期待したいですね。
(浅田氏)我々個人とNetflixなどの制作現場レベルではものすごく頑張っているので、あとはより大きな力も動くことを願います。
登壇者プロフィール
並木 道子:株式会社フジテレビジョン ドラマ・映画制作部所属、Netflixシリーズ「金魚妻」監督
2002年フジテレビ入社。主な代表作は『最高の離婚』、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『問題のあるレストラン』、『開局60周年特別企画 レ・ミゼラブル終わりなき旅路』など。
浅田智穂:インティマシー・コーディネーター
15年以上にわたりエンターテイメント業界で日英の通訳を担う。ハリウッドと日本の共同制作映画における監督やキャストの通訳や、ブロードウェイ・ミュージカルを日本向けにアレンジする監督やプロデューサーの通訳を担当。日本で初めてインティマシー・コーディネーターを導入したNetflix映画『彼女』での業務を遂行し、現在は複数のNetflixオリジナル作品などのプロジェクトに関わっている。
小沢 禎二:Netflix プロダクション部門 日本統括 ディレクター
2018年入社。Netflixの東京オフィスを拠点に、日本発のオリジナル実写作品におけるプロダクション、ポスプロ、VFXチームを統括。入社後、Netflixオリジナルシリーズ「全裸監督」や「FOLLOWERS」「今際の国のアリス」などの作品を担当。入社前はフリーのプロデューサーとして映画、CM などの映像制作に携わる。大学卒業後、南イリノイ大学映画学科へ留学しハリウッドのテレビ制作会社でミュージックビデオやCMなど幅広く撮影助手を担当したのち、2000 年に帰国。2004 年以降はフリーランスの制作として、フランス映画『INJU』やジョン・ウー監督作品『マンハント』など国際共同制作映画に参加したほか、『海難1890』ではプロデューサー、『テルマエ・ロマエII』や『バンクーバーの朝日』、『50回目のファーストキス』、『キングダム』のライン・プロデューサーを歴任。
小島 慶子:エッセイスト/タレント(MC)
1972年 オーストラリア生まれ。 幼少期は日本のほか、シンガポールや香港で育つ。学習院大学法学部政治学科卒業後、1995年にTBSに入社。アナウンサーとしてテレビ、 ラジオに出演する。1999年 第36回ギャラクシーDJパーソナリティー賞を受賞。ワークライフバランスに関する社内の制度づくりなどにも⻑く携わる。2010年に退社後は各種メディア出演のほか、執筆・講演活動を精力的に行っている。現在は東京大学大学院情報学環客員研究員としてメディアやジャーナリズムに関するシンポジウムの開催なども行っている。2014年より、オーストラリア・パースに教育移住。夫と二人の息子はオーストラリアで生活し、自身は日本に仕事のベースを置いて、日豪を行き来している。
