コンテンツに移動

【コラム】「配達人〜終末の救世主〜」が描く2071年の世界

BlackKnight Unit 105 30 00001

砂漠化した2071年、”酸素”が権力になる世界

Netflixシリーズ「配達人〜終末の救世主〜」は、深刻な大気汚染のため、防毒マスクなしでは生きられなくなった2071年の朝鮮半島が舞台。斬新な世界観を壮大なスケールで描く、新しい韓国ドラマがまた一つ誕生した。

しかし、常に現実社会を反映している韓国ドラマらしく、この作品で描かれる世界は、決して”ありえない未来”ではない。

マスクを外せない環境や、配達により必需品を受け取る生活。原作であるウェブトゥーンは2016年から2019年に連載されたものであるが、奇しくも全世界が経験したばかりのパンデミック禍の自粛生活を彷彿とさせる世界観に、主演のキム・ウビンも「(作品の中の出来事は)本当に起こるかもしれないと思った」と語っている。

今は当たり前に存在している酸素が売買され、酸素を握るものが権力を持つ世界。何十年か前には、水を買う時代が来るとは思わなかったことを考えると、そんな未来も遠くないかもしれない。砂漠化された街の様子は、全くの異世界ではなく、光化門やロッテワールドタワー、江南の街並みなど、実際の風景をベースに、最新のVFX技術で作り上げられた”あり得るかもしれない未来”の姿だ。

しかし、作品の中心にあるのは、やはりそこに生きる人間たちの物語。限られた酸素や資源を巡って、階級分けされた社会で巻き起こる、持つ者と持たざる者との戦い。1、2話で作品の世界観に入り込めば、6話の結末まではあっという間だ。 「配達人〜終末の救世主〜」全6話の脚本・演出を手掛けるのは、チョ・ウィソク監督。25歳で国内最年少で長編映画の監督デビューを果たし、キム・ウビンも出演した映画『MASTER/マスター』(2016)では、700万人以上の観客を動員。今回この作品で初めてドラマ作品に挑戦する。

未来と現在、想像とリアルが交差する世界観

この世界では、人々は一般/特別/コアの3階級に区分されている。最も身分の高い”コア”に属するのは、ほんの一握りの人間。身分を証明するのは、手の甲に埋め込まれたQRコードだ。そして、どの階級にも属せず、QRを持たない難民が存在する。物語の中心となるサウォル(カン・ユソク)も難民の一人だ。

難民の中には、酸素や生活必需品、時には”QRコード略奪”を行うハンターになる者もいる。差別を受け、十分な酸素や物資も確保できない難民たちにとって、生き残るための希望は配達人になること。

配達人は、その名の通り、トラックで酸素や生活必需品の配達を行う職業だが、この世界では人々の命を支える存在であり、自身もQRコードを持つことができる。トラックを狙うハンターに勝てる強さを持つものだけが選ばれるため、憧れの存在でもある。

ここは、現実世界との違いが面白い。日本以上に、配達文化が浸透し、インフラ化している韓国社会においては、街に配達人たちが溢れている。日用品はもちろん、食事やカフェのコーヒーまで、あらゆるものがスマホで手軽に注文でき、注文から15分以内に品物が手元に届くことも珍しくない。

1分1秒でも早く、大量の荷物を効率的に届けるために工夫する配達人たちの重労働が、このような便利な社会を実現しているが、現実社会では、それは最も身近なアルバイトの一つであり、彼らの苦労に光が当たることはなかなかない。現実世界ではありふれた配達人を「選ばれし者、人々の命を支える憧れの存在」として描くという逆転の発想が、原作が注目を集めた理由の一つでもある。 物語は、並外れた戦闘能力を持つ、伝説の配達人"5-8"(キム・ウビン)と、配達人を目指す難民、サウォルを中心としてストーリーが展開していく。

それぞれの階級の人々が生活する空間の描写も興味深い。人々は階級が上がるごとに、砂漠化された地上から離れて地下深くで暮らすことができる。

難民区域:砂漠化した地上にあり、建物も廃墟と化した空間 ・一般区域:酸素と生活必需品の配給を受けなければ生活できない、画一化された環境の空間 ・特別区域:陽の光をあびることができない、地下奥深くにある居住空間 ・コア区域:酸素や物品が不足することなく、唯一緑のある空間

陽の光を浴びられない、地下の特別区域で生活する人々に起こる問題もどこかリアル

本作では、俳優たちは多くのシーンをブルースクリーンの前で演技し、壮大な世界観は最新のVFX技術を使って作り上げられたという。また、砂漠化した世界で生活する人々をリアルに表現するため、マスクを取った人々の顔の皮膚にも細かな演出が施されている。

これらの社会の基盤を作ったのが、配達人の雇用主でもあるチョンミョングループだ。鉱物を酸素に変えることで、汚染された空気でも住むことができるようにするエアーコアを開発。生活空間や配達システムまでを提供し、実質的に社会を支配する存在である。

ソン・スンホン演じる、チョミョングループの後継者リュ・ソク

さらに、新たな「A区域」の開発・移住計画をめぐり、チョンミョングループを中心として、登場人物たちの様々な思惑が交差していく。

俳優たちが見せる新たな姿・キャラクターの魅力

配達人"5-8"(キム・ウビン) 配達人の中で、難民出身で並外れた戦闘能力を持つ"5-8"は、伝説と呼ばれ難民たちはもちろん、一般階級の人々の間でも有名な存在だ。

誰よりも強く、常に冷静に、配達人としての仕事をプロフェッショナルにこなす5-8は、仕事が終わると、配達人の仲間たちと一緒に難民区域を巡回。チョンミョングループの配達人として働く傍ら、もう一つの顔を持っている。誰もが平等に生活できる世界を望む彼ら。徐々に明かされていく、彼らの壮大な計画とはーーー。

チョ・ウィソク監督のヒット作『MASTER/マスター』(2016)にも出演したキム・ウビンは、やはり今回の作品へ出演を決めた理由も「監督への信頼が大きかった」という。

これまで、ドラマ「相続者たち」(2013)「むやみに切なく」(2016)など、主にロマンス作品でアジアを中心として人気を博してきたキム・ウビン。休養を経て、復帰後3作目となる本作では、新しいジャンルに挑戦し、これまでとは異なる魅力を見せている。グローバルの視聴者にも、彼の魅力が伝わることを期待したい。

難民 ユン・サウォル(カン・ユソク) 配達人になることを夢見る、難民のサウォルを演じるのはカン・ユソク。前作「ペイバック~金と権力~」の検事役や、「スタートアップ:夢の扉」の双子の天才プログラマー役など、作品ごとに違う顔を見せる若手注目株の一人だ。本作でも素朴な青年でありながらも、どこか非凡で掴みどころのないサウォルの独特な魅力を見事に表現している。

サウォルが、配達人の選抜大会で命がけで戦っていく過程は、物語の中で最も没入度が高い部分と言っても過言ではない。

オーディションを通してキャスティングされたというカン・ユソク。監督は「普段はとても落ち着いているのに、演技をし始めると活発な姿が印象的だった」と話す。カン・ユソクも「サウォルは、活発で陽気で、砂漠化された地球でも希望を抱いて生きている人物。それを表現するために努力をした」と役作りについて語っている。

チョンミョングループ後継者 リュ・ソク(ソン・スンホン) 砂漠化した世界で、人々が生活できる環境を作り上げたチョンミョングループの会長の息子であり、後継者であるリュ・ソク。唯一、酸素や緑が存在する地下奥深くのコア区域で暮らし、砂漠とは無縁の生活を送りながら、世界を支配する存在だ。

チョ・ウィソク監督のデビュー作、映画『ひとまず走れ!』(2002)にも出演し、個人的にも監督と20年来の友人というソン・スンホンは、本作の企画が持ち上がったときから、斬新な世界観に惹かれ、出演を希望していたという。

共演者たちは「現場では、常に周りをリラックスさせるムードメーカーだった」と語るが、本作では、爽やかで誠実なソン・スンホンのイメージとは異なる新しいキャラクターに挑戦している。

「今回の役は、悪役か?」という質問に、ソン・スンホンは「どちらかと言われれば、悪役とも言える。ただ、リュ・ソクには彼なりの信念があり、理由がある。それを念頭に見てもらえば、一概に悪い人物だとも言えないだろう」とキャラクターを紹介している。

軍・情報司令部 少佐 ソラ(イ・ソム) 物語の中で発生する事件を掘り下げていく、情報司令部の少佐ソラを演じるのはイ・ソム。Netflix映画『「キル・ボクスン』(2023)」での個性的なキャラクターがまだ記憶に新しいが、本作では、国を守るという使命感を持ち、どんな状況でも冷静な軍人を演じる。

そんなソラの人間的な一面が見られるのが、サウォルとの関係性だ。サウォルにとっては、恩人であり家族であるソラ。そんな彼女は、5-8、そしてチョンミョングループ後継者リュ・ソクとは、敵となるのか、味方となるのか。

イ・ソムとキム・ウビンは、共にモデル出身で、今は演技の世界でも成功を収めている。しかも、イ・ソムは、2011年のキム・ウビンのドラマデビュー作にも出演しており、今回が久しぶりの共演だった。キム・ウビンは「撮影しながら昔話もした。当時は監督に怒られてばかりだったが、長い時間が経ち、成長した姿で再会できてとても嬉しかった」と”戦友”との久々の共演の喜びを語っている。

(文:Misa)